『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のスタッフたちによる新作オリジナルアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)を観てきました。超ネタバレするので、これから観に行く予定の人はご注意を。

ここさけ

映画『心が叫びたがってるんだ。』映画『心が叫びたがってるんだ。』


全体の感想

この映画は、言葉を話せなくなってしまった主人公・成瀬順(なるせ じゅん)を中心として、自分の気持ちをなかなか伝えられない少年少女たちの群像劇を描いたもの。僕のようなコミュ障にとっては、共感できる部分が多い作品。


観に行く前は「『あの花』の二番煎じだったら…」という不安があったんですが、全然そんなことなかったですね。むしろ『あの花』以上に気に入りました。観ていてけっこう恥ずかしいというか痛いところもありますが、それゆえ心に響く映画になっています。

展開は『あの花』より『true tears』に近いので、『true tears』が好きな人は楽しめるかと(ただし、比呂美エンドを許せないという人はダメかも…)。はい、わかる人にはこれだけで壮絶なネタバレになりました。

作中では、主人公たちのクラスが全員でミュージカルをやることになるんですが、「ピアノソナタ第8番『悲愴』」や「Over The Rainbow」、「Around The World」などの名曲にオリジナルのストーリーを組み合わせた歌がすごく良かったです。サウンドトラック欲しい。この映画を機に、原曲もちゃんと聴いてみようかな。




以下、ちょっと気になった点について。


玉子の妖精

物語は、幼い頃はとてもおしゃべりだった順が、突然現れた「玉子の妖精」によって呪いをかけられ、言葉を話せなくなってしまう、というところから始まるんですけど…

この「玉子の妖精」を見たとき、真っ先に「ハンプティ・ダンプティ」を連想したんですよねぇ。


ハンプティ・ダンプティとは、イギリスのマザー・グース(童謡)のひとつで、そのなかに登場する玉子の形をしたキャラクターの名前でもあります。

そのハンプティ・ダンプティの有名な詩がこちら。
Humpty Dumpty sat on a wall.

Humpty Dumpty had a great fall.

All the king's horses and all the king's men

Couldn't put Humpty together again.

塀の上に座っていたハンプティ・ダンプティが落っこちてしまい、王の馬や兵士たちがみんなで助けようとするも、(ハンプティがずんぐり体型でとても重かったため)彼を元の場所に戻してあげることはできなかった、というような意味です。


ここから、ハンプティ・ダンプティは「非常に危なっかしいもの」とか「一度壊れると元には戻らないもの、取り返しのつかないもの」などの比喩として、また「ずんぐりむっくり」体型の人を表すことばとして使われるようになりました。

実際『ここさけ』では、ときに他人を傷つけ、一度発すると取り返しがつかないという「言葉」の危なっかしい側面が描かれています。

そのような「言葉」の暴力性を最も強く実感していたのが、主人公の順。幼い頃自分が何気なく発した言葉によって、両親が離婚することにまでなってしまい、そのショックから「玉子の妖精」という存在を自ら作り出してしまうわけです。


また、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』には、ハンプティ・ダンプティがアリスに対して、「言葉」というものについて持論を展開する場面があります。


そこでは、普段おしゃべりなアリスが、ハンプティ・ダンプティのめちゃくちゃな主張を聞いて黙ってしまうんですが、順が玉子の妖精に呪いをかけられる『ここさけ』冒頭の展開が、まさにこの場面にそっくり。


以上から、玉子の妖精というキャラクターには、ハンプティ・ダンプティの詩の意味が込められているのではないかと思います。



玉子と王子

それから、映画のパンフレットを見てみたところ、脚本家・岡田麿里さんのインタビュー記事にこんなことが書いてありました。
「玉子って‘‘点’’をとると王子になるよね」っていう話で、小学生の頃に盛り上がった記憶があって。このネタは……ネタっていうほど大そうなものじゃありませんが(笑)、いつか描いてみたいなとは思っていました。

このネタ、実際に作中で使われまくってました。

冒頭で玉子の妖精が王子の姿に変身するシーンが一番わかりやすいですが、声優の内山昂輝さんが坂上拓実という男子(順の好きな人、つまり順にとっての「王子様」)と玉子の妖精の二役を演じていることも象徴的。

それから、順のお父さんも「王子」かつ「玉子」的な人物。順はお城(ラブホ)からお姫様(浮気相手)と一緒に出てきた父親のことを「お腹ぽっこりの王子様」と表現していました(記憶があいまいなので、違う呼び方だったかも)。お腹ぽっこり→ずんぐりむっくり→ハンプティ・ダンプティ→玉子!浮気がばれて取り返しがつかなくなったことも、ハンプティ・ダンプティの詩の意味の通り。


そして田崎大樹という男子生徒も、玉子と王子の二つの役割を果たしているキャラクターだと思います。

大樹は野球部のエースで、クラス全員でやるミュージカルでは「玉子」の役を演じることになるんですが、右ひじを故障してしまっていて、映画では最初から包帯&三角巾姿で登場します。

ところが最後のほうでは、怪我が良くなって三角巾を外しているんですよね。その頃には順のことが好きになっていて、ラストシーンで告白するわけです(この前に順は拓実にフラれています)。

その後どうなったかは描かれていないんですけど、大樹の右ひじの怪我を「玉」という字の右に付いてる「点」だと解釈すれば、「玉子」の役を演じていた大樹が、ラストに「点」がとれて順の新しい「王子」になった、というふうに読めるのではないかと。

というわけで、僕は順と大樹は付き合うことになると思ってます。というかそうなってほしいなぁ。